にっぽん丸30周年記念クルーズレポート
30年の“想い”を乗せて

にっぽん丸30周年記念クルーズレポート 30年の“想い”を乗せて
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2021.12.07

●OBたちの回顧録に深夜のノスタルジックなひととき

 

一流のエンターテイナーたちのステージに加え、30年を振り返る企画として商船三井客船ゆかりの人々によるトーク企画も多数設けられていた。ラウンジ「海」で行われたOBの方々の座談会は、満員御礼。「世界一周クルーズのとき、乗客の方に『そんなに長い航海、食材はどうするんですか』と聞かれまして。『大丈夫です、船底に温室があって野菜を育てていますし、鶏も飼っていましてね』なんて冗談で言ったら、本当に信じていた方がおられましたね」なんてエピソードも飛び出し、笑いが起きる。実際は「世界一周中には決して同じメニューを出さない」などのルールを課したなか、なかなか日本の食材が手に入りにくい海外クルーズとあって、食材を空輸する苦労もあったという。

 

クルーズディレクターの星野啓太さんが届けるイベント「星の部屋」が始まったのは、なんと24時近く。この時間から始まることに、今クルーズのイベントが目白押しなのが伝わってくる。深夜ラジオをイメージしているというこのイベントでは、星野さんの入社直後の若き日の写真も展示され、乗客がドッと沸くシーンも。「眠くなったら遠慮なくお帰りになっていただいて大丈夫ですよ」と幾度ともなく星野さんがささやくが、誰も席を立たず、むしろクスリとした笑みがこぼれる。にっぽん丸のロングクルーズを中心とした歩みが写真とともに紹介され、とっぷり夜も更けた時間もあって、ノスタルジックなひとときが流れた。

CRUISE GALLERY
まさしく深夜ラジオのような密やかな楽しみが詰まっていた「星の部屋」。星野さんの美声もたっぷり聞ける
OBの方々のトークショーは、現役のクルーも多く耳を傾けていた。現役の方々へのメッセージも

●自然に身を委ねる船旅ならではの光景

 

村上寛船長と川野惠一郎ゼネラルマネージャーのトークイベント「にっぽん丸四方山話」では、思い出のクルーズ話が尽きなかった。香港返還の日に合わせたクルーズでは、天候悪化に見舞われ、返還の時に間に合うかハラハラしたという。「南洋の楽園クルーズ」では遭難したヨットを見つけ、男性とプードル犬を無事に救助したこともあった。2017年の小笠原クルーズでは西之島の噴火に遭遇、安全な距離を保ちながらもこの稀有な自然現象を乗客ともども観賞する機会を得て、「原始の地球に触れた気がしました」。そのトークを聞いていると、船旅とはまさに自然の真ん中に繰り出して、自然に身を委ねることだと改めて思った。

村上寛船長と川野惠一郎ゼネラルマネージャーのトークショー。思い出話にうなずきながら耳を傾ける乗客が多かった
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村上寛船長と川野惠一郎ゼネラルマネージャーのトークショー。思い出話にうなずきながら耳を傾ける乗客が多かった

実際、このクルーズでもそんな自然のありようを感じるシーンがあった。出港時はあいにくの雨で翌日の予報は芳しくはなかったが、一夜明けてみると澄み切った快晴となり、眼前に朝日で山肌がピンク色に染まった雄大な富士山の姿が浮かんだのだ。今航海の指揮をとる二宮悟志船長も船内放送で、「日の出時刻は曇りの予報でしたが、操舵室にあるこんぴらさんの神棚にお祈りしたところ、無事に晴れて富士山がくっきりと見えました」と弾んだ声で報告してくれた。「このこんぴらさんはいざというとき、にっぽん丸を助けてくれます」とも。大海原にあれば小さな船、これまで幾人も船上で祈り、自然の大いなる力にひれ伏すような気持ちになったのは想像に難くない。

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雲が切れ、真っ青な空に富士山が浮かぶ。すがすがしい空気に包まれた中、デッキでラジオ体操
にっぽん丸の丸窓からも富士山の雄姿が望めた。祝いの日に相応しい光景

●縁の下の力持ちとの30周年も

 

先の村上寛船長と川野惠一郎ゼネラルマネージャーのトークショーに話を戻そう。終盤、川野ゼネラルマネージャーはこんなことも言っていた。「にっぽん丸が30周年を迎えられたのは、フィリピンクルーの力も大きいです。当初は18名だったフィリピン人クルーも、現在132名まで増えていて、にっぽん丸にはなくてはならない存在となっています」。公の場で裏方である彼らに感謝を伝えるその心持ちに、なんだかジーンときてしまった。加えてその日の晩のディナー時は思いがけず、ダイニングのウエイター&ウエイトレスが皆、フィリピンの正装に身を包んでいた。ダイニングマネージャーに尋ねると、「にっぽん丸が30周年を迎えるということは、フィリピン人クルーとの付き合いも30周年なんです」とのこと。カラフルでエキゾチックな衣装のウエイター&ウエイトレスたちが活躍するダイニングは、祝宴らしい華やかさに満ちていて、ここにもにっぽん丸が紡いできた縁が感じられた。

バロン(男性)、バロット(女性上衣)&サヤ(女性スカート)というフィリピンの正装に身を包んだウエイターとウエイトレス
CRUISE GALLERY
バロン(男性)、バロット(女性上衣)&サヤ(女性スカート)というフィリピンの正装に身を包んだウエイターとウエイトレス

提供されたのは30周年記念フルコースディナーにふさわしい、オマールテールのテルミドールやパイ包み焼きスープなど、にっぽん丸伝統の味の数々。実は2020年の改装後に始まった新たなサービス「にっぽん丸SHOW CASE」は今クルーズでも開催され、中山勝利総料理長の軽快なトークとともに、実際の料理を作る様子が紹介されていた。そこでは洋風のサラダにも塩昆布など和の素材を合わせていることが明かされていたが、なるほど記念ディナーは洋食だが、どの料理もほんのりとした和のテイストが感じられた。多くの日本人を乗せてきたにっぽん丸、幾多の旅人が船上で「おいしい!」とにこやかに語ってきた姿が思い浮かぶ。

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30周年記念フルコースディナーを一品ずつ紹介しよう。オードブルのスモークサーモンのスコッタート、プティサラダ添え山葵クリームドレッシング
にっぽん丸パイ包み焼きスープは、キノコのようなフォルムも愛らしい。30年前に登場して以来人気の一品
魚料理はオマールテールのテルミドールと千葉県産鱸のポワレ、アメリケーヌソース
お口直しに生口島レモンのグラニテ。さっぱりとして口がリセットされる
肉料理は鹿児島県産黒毛和牛テンダーロインのトルネード。牛フィレ肉の柔らかさとベーコンとのコントラストが絶妙。昔からのぜいたくな一品
オードブルの作り方を解説した「にっぽん丸SHOW CASE」の様子。味や盛り付けの秘密が次々と明かされていく
オードブルの作り方を解説した「にっぽん丸SHOW CASE」の様子。味や盛り付けの秘密が次々と明かされていく
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