飛鳥クルーズの新造客船、船出に向けて着々と
歳森室長は実際にドイツにも足を運び、造船所の視察やデザインやコンサルティングを担うSMCデザインとの打ち合わせなど、多岐に渡る業務を担っている。
「先日はハンブルク港にある陸電施設(※1)の視察も行いました。環境先進国のドイツでは、着岸中の船舶への陸上電力供給システムが国や州の負担で整備されつつあります。船舶が陸上電力を利用し着岸中に発電機関を止めることで、港周辺の環境保全に貢献できるからです。
日本にはまだ陸上電力を供給できる設備を有する港はありませんが、新造船にはその機能の搭載の話をしており、海外では利用の義務化の動きもあるようですので、世界一周クルーズなどで活用していきたいと思っています」。
(※1)船舶陸上電力供給施設のこと
陸電しかり、新造船は環境に配慮した客船となるのは周知のとおりだ。寄港する各港湾事情に対応し多彩な航路を実現するため、LNG(液化天然ガス)に加えて低硫黄燃料、ガスオイル燃料の計3種類の燃料に対応したデュアル・フューエル・エンジンを搭載するのが大きな特徴となっている。
LNG燃料に対応した客船は近年続々と就航しているが、そのほとんどが10万トン超の大型船。中型に分類される飛鳥クルーズの新造船は、同サイズの客船の中でも一歩先をゆく仕様だと言えよう。
先の遠藤社長も、こうした環境への配慮は新造船の設計における重要なテーマのひとつだと語る。
「日本の客船は外国客船に比べて、お風呂などの習慣もあり、水の使用量が多いという側面があります。客船の水は海水をろ過して作っていますが、水を作るためには燃料も必要です。燃料を多く使うということはそれだけ環境に負荷がかかるので、水の使用量は減らしていきたい。ただその方法も、例えば節水型のトイレを採用するなど、お客さまが不便を感じないように行っていきたいと思います」。
●確固たる信念を持って
本物へのこだわりを重視する
新造船が目指す環境への配慮は、上辺だけのものではない、本気度が高いものだ。環境への配慮しかり、新造船が目指すものに「本物」というのが重要なキーワードだと遠藤社長は語る。だからこそしばしば社員に対して伝えていることがあるという。
「一番は『本物へのこだわり』を持ってほしいということです。マイヤー ベルフト造船所は多くの客船を建造しているので、コストをカットするノウハウも持っています。けれどすべてコストをカットすればいいかというと、そういうわけではない。例えば手すりでも、木材を使うとコストもかかるし、メンテナンスも必要になってくる。だからといって木材のように見える別の素材を使えばいいかというと、そうではない。一方でチークの天然森は年々減っています。だから環境に配慮して造林した山でのチークを選んでいる場所もあります。そういうところを見極めることは重要で、『飛鳥クルーズはこうあるべき』という確固たる信念を持って、本物にこだわっていきたいと思っています」。