【レポート】東京湾で涼を得る――眠っていた浴衣を着て、納涼船へ
●毎日運航、東京湾を2時間かけて遊覧航行
「東京って、キレイなんだね~!」。浴衣に身を包んだ若い女性が、目を輝かせながら、そんな感嘆の声を上げる。「東京湾納涼船2022」に参加した多くの人が、きっと同じ思いを抱いたのではないだろうか。
東京の諸島部をつなぐ東海汽船。同社が実施し、夏の風物詩となっているのが、東京湾を遊覧する「東京湾納涼船」だ。コロナ禍で昨年、一昨年と実施が見送られたが、今年は実に3年ぶりの開催となった。初運航の7月11日から9月11日まで、気象などの条件が整えば毎日運航する。
出航するのは、竹芝客船ターミナル。普段は諸島部に行く乗客が、スーツケースやバックパックを抱えて集う場だが、納涼船の乗船前は少し雰囲気が異なった。浴衣姿の老若男女が集い、華やかな雰囲気に。
納涼船といえば浴衣。いつしかそんな図式が出来上がっている。約2時間の遊覧は乗船券は1500円とリーズナブルなうえ、ゆかた姿で乗船すると500円割引になるのだ。そんなサービスもあって、船内は各地の夏祭りも負けない、浴衣の着用率の高さ。そもそもこのコロナ禍で各地の夏祭りが中止されることも多いなか、納涼船は眠っていた浴衣を久々に着る絶好の機会だ。
ちなみに竹芝客船ターミナルには公式のレンタル「ゆかたSHOP」も設けられている。ここでは浴衣をフルレンタルし、かつプロの着付けをお願いしても女性で4800円。大きな荷物もショップに預けておけるから、会社帰りにふらりと寄って浴衣に変身して乗船することもかなう。そのせいか、乗客には働き盛り、遊び盛りの若者も多く集う。
浴衣に身を包んだ乗客が、ビール片手に待ちわびる中、いよいよ出航した。船内に設けられたブースからMCが出航を高らかに告げる。
初出航となった取材日は、あまりの暑さに「本当に“納涼”船なのかな……?」と疑問すら持ったが、それは杞憂だとすぐに知った。19時15分という出航時間のせいか、はたまた海上にいるせいか、船上には涼しい風が吹き抜けていく。
出航してすぐ、乗客のにぎわいが左舷側に集まった。MCが「なんと出航初日を記念し、サプライズで船の左側から花火が上がります!」と発表したのだ。これには乗客一同から拍手があがった。夏祭り同様、中止される花火大会が多いなか、船上で花火が見られるのは貴重な贈り物だ。
カウントダウンののち、ドーンドーンという音とともに、海上から花火が上がる。多くの乗客がスマホを手に、その感動の瞬間を写真や動画に収めていく。ああいよいよ夏が始まった!と心も踊る。
花火が終わり、船は東京湾を進んだ。夕陽に空がオレンジ色に染まり、海沿いの建物のライトが徐々に輝きを増していく。マジックアワーと呼ばれる、一日の中でも最も美しい時間帯だ。冒頭の女性の感想さながら、東京の美しさに見惚れる。
巨大な橋の下を通過しながら思う。東京の美しさは、自然美とは対極の人工美にあふれた街だ。よくキリンに例えられるガントリークレーンの愛らしい姿に見入りながら、人間の営みの偉大さに感じ入る。
そんな非日常感あふれるシチュエーションのせいか、船内は和気あいあいとした空気に包まれる。船という非日常空間は、乗客同士をぐっと近づける。生ビール売り場は盛況で、フードコーナーも列をなしていた。
フードのセレクトもなかなか。「冷やしきゅうり」(200円)、「りんご飴」(300円)のような縁日を彷彿とさせるものもある。一方で、同社が就航する諸島部にちなんだ、島メニューもずらり。八丈島の名産で知られる「明日葉の天ぷら」(600円)や青唐辛子がピリリときいた「青唐からあげ」(500円)など、食欲と好奇心をそそるメニューだ。