CRUISEforSDGs――クルーズがつくる新しい未来
寄港地コミュニティーもハッピーに
楽しいクルーズは、寄港地のすばらしい自然やそこに住む人たちの幸せな生活があってこそ成り立つもの。大勢の観光客がどっと押し寄せて、寄港地の暮らしや自然環境に影響があっては、いずれ客船は歓迎されなくなってしまう。
そんなことにならないよう、まずは訪れる私たちが、寄港地の文化や歴史、自然環境を深く知ることから始めたい。
たとえば寄港地ツアーでは、その土地ならではの食文化や産業、伝統工芸などを継承する地域の取り組みを知り、一緒に体験したり商品を購入したり。専門ガイドの解説を聞きながら、自然保護プログラムに参加する方法もある。「地域の宝」を継承し、未来へとつなげる取り組みを知ること。これこそ「持続可能な旅」につながるのではないだろうか。
これからの時代、スタンプラリーのように名所・旧跡を回るだけの寄港地ツアーは、乗客の側にも受け入れられなくなっていくだろう。
クルーズラインと乗客、そして寄港地のコミュニティーのいずれもがハッピーになれる。そんな良い循環が生まれれば最高だ。
■大切なのはコミュニティーの合意
持続可能なクルーズは、寄港地コミュニティーの合意なくしては成立しない。ポナンは新しい航路を設定する際、環境への影響を必ず事前に調査し、地域住民への説明とクルーズ受け入れの合意形成を図っている。また、すべての港で厳格な上陸基準を定め、上陸時には、各船に1人以上いる専門担当者が、環境負荷がないかどうかをガイドラインにそってチェックするという徹底ぶり。
■事故をきっかけにモーリシャス支援
モーリシャスの自然環境の回復と地域社会の発展を支援している商船三井。きっかけは2020年に起きたタンカー事故だった。合計8億円を投じて、息の長い支援を続けている。グループ会社の運航するにっぽん丸による「モーリシャスクルーズ」もその一環。現地で収穫を行う農業体験「にっぽん丸農園」や、マングローブ・エコツアーのほか、地域の人々との交流体験プログラムも企画中だ。
■かつての砂採取場をプライベートアイランドに
バハマにオープンしたMSCクルーズのプライベートアイランド「オーシャンキーMSCマリンリザーブ」はめずらしい手法で夢の楽園を実現した。ここはかつて工業用の砂の採取場だったが、周辺に広がる165平方キロメートルもの海洋保護区と一体となるよう、島本来の自然の姿に復元。絶滅の危機に瀕しているサンゴ礁の再生や、教育プログラムの実施、海洋保護センター建設も進行中だ。
■持続可能がテーマの寄港地ツアーも
寄港地ツアーも進化中。リージェントセブンシーズクルーズは、地元企業による環境保全の取り組みを知るツアー「エココネクト」を企画。フランスのボルドーの持続可能ワイナリーでオーガニックワインを試飲したり、コスタリカでナマケモノが回遊できる楽園づくりを手伝ったり。シルバーシー・クルーズの「SALTプログラム」は、地域の食文化を深く知る体験ができると好評だ。
■おいしく食べて、環境にもやさしい
食材の調達にも新しい視点での取り組みが。ポナンは食材の7割を、フッティルーテンはノルウェーの定期船で食材の8割を、寄港先で調達している。食材輸送時の二酸化炭素を削減できるうえ、乗客は地元の食材や食文化についての理解を深めることができる。RCLでは2025年までに卵をすべてケージフリー(※)のものに替えるなど、家畜の生育方法から見直しを図っている。
(※)平飼いまたは放し飼いで育てた鶏
■専門家と協力した、自然保護の取り組み
RCLは今春、世界自然保護基金(WWF)と5年間のパートナーシップを提携したばかりだ。500万ドル(約6億5000万円)を寄付し、海洋生物の保護を支援。WWFからは持続可能なシーフード食材の調達など、環境を保護し、サステナブルなビジネスに変えるためのアドバイスを受ける。海洋調査などの研究に一部の船を提供しているのがポナン。さらに2025年までに全船に拡大する計画だ。