にっぽん丸で冬のしまなみ海道へ
海と陸から絶景をめぐる週末旅

にっぽん丸で冬のしまなみ海道へ 海と陸から絶景をめぐる週末旅
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2023.12.27
にっぽん丸で博多港から冬のしまなみ海道を訪ねた。
2泊3日という短い日程ながらも、満足感は期待以上のクルーズ旅となった。
無数の島々が織りなす瀬戸内の美しい景色を海と陸からめぐった週末旅をレポートしよう。
写真・文=君島有紀
瀬戸内海の多島美がにっぽん丸を染めた。夕焼けも心が洗われる美しさだった

クルーズ旅行は時間の余裕が必要というイメージが強いが、実は週末で完結するショートクルーズも少なくない。今回の「にっぽん丸」のクルーズも金曜の夕方に港を発ち、日曜の朝には帰港するというコンパクトな日程だ。気軽さが魅力の一方で、正味2日間という短さでクルーズを満喫できるものなのか。そんな懸念を抱きながら、荷造りを進めた。

 

博多港に着くと、空は厚い雲に覆われ小雨がちらついていた。中央埠頭クルーズセンターに一歩踏み入れると、そんな天気もどこ吹く風な賑々しい雰囲気に包まれ、安心感を覚える。

 

待合室を見渡すと、3人以上のグループが数多く目に留まる。友人同士、親子三世代をはじめ、祖父母と孫と思われる組み合わせも見かけた。金曜の午後ゆっくりとスタートするクルーズだけに、学校や仕事を早く終えて参加している人も少なくないようだ。日程を合わせやすいという点も、間違いなくショートクルーズの美点だろう。

博多港に停泊しているにっぽん丸。隣には博多港と韓国・釜山港を結ぶフェリー「カメリア」の姿が
CRUISE GALLERY
博多港に停泊しているにっぽん丸。隣には博多港と韓国・釜山港を結ぶフェリー「カメリア」の姿が

■「いってらっしゃい!」 に感極まる

 

「寒い~」。避難訓練のため、プロムナードデッキに出てきた方が口々に叫ぶ。週の始めは初夏のような陽気だった福岡だが、この日は一転して例年以下の気温。海風も加わり、コートを着ていても自然と体が縮こまる。

 

出航を知らせるドラの音を合図に、岸壁で福岡市消防局の音楽隊とチアガールによるお見送りが始まり、旅のスタートを華やかに彩った。先ほどまで肩をすぼめていた乗客たちも、デッキからにっぽん丸の旗を元気よく振り、笑顔で見送りに応えていた。

 

船が岸から離れていく間もずっと演奏は止まず、チアガールは米粒のような小ささになるまで大きく手を振り続けてくれた。その様子に「旅へ出るのだ」という実感が一気に押し寄せ、不意に胸が一杯になった。週末だけの短いクルーズというのに、船出の見送りがこんなにもうれしく、温かな気持ちになるとは知らなかった。体はすっかり冷えたが、心はほっこりと満たされ、船内へと戻った。

福岡市消防局の音楽隊は「Another Day of Sun」や「花のワルツ」などを奏で、旅情を盛り上げる
チアガールがフラッグを使ったエネルギッシュなダンスで、旅立ちに華を添えてくれた
ダンス後にはデッキから大きな拍手。出航後も手や旗を振り続けていた

■思い思いに船内を満喫

 

出航後すぐにディナーを終え、船内散策へと繰り出す。各所にキラキラと華やかなクリスマスの装飾があり、どことなくウキウキした気分になる。いくつになってもクリスマスやイルミネーションには、心が浮き立つものだ。

 

ブティック「アンカー」でのショッピングついでにeカフェ&ライブラリーに立ち寄ると、気になる本を見つけた。それを手に「レコードアワー」を実施中のラウンジ「海」へと向かう。

 

好きなレコードをリクエストできる「レコードアワー」では、お酒を片手に音楽に身を委ねる落ち着いた大人の時間が流れていた。船の静かな揺れがなんとも心地いい。誰かがリクエストした、ビング・クロスビーの「White Christmas(ホワイト・クリスマス)」が流れ、ますますクリスマス気分に酔いしれた。

 

お酒と音楽と読書をしばし楽しんでいると、隣席のご夫妻が「そろそろ始まる時間よ」と席を立つ。ポケットに入れてきた船内新聞を確認すると、マーメイドシアターの上映時間が近づいているようだ。それを機にラウンジを出てライブラリーへ本を返しに行くと、隣接のカードルームから楽しそうな声が聞こえてきた。のぞいてみると、カジノゲーム(※)に興じる人でいっぱいだった。それぞれにクルーズの楽しい夜を過ごしているのを垣間見た夜だった。

 

※にっぽん丸のカジノは賞品を獲得するゲームで、金銭のやり取りはない

にっぽん丸オリジナルカクテルを片手にゆったり過ごしたレコードアワー。ウィスキーや日本酒のほか、ノンアルドリンクも楽しめる
レコードは約500枚を用意。洋楽、クラシック、ジャズ、映画音楽などジャンルごとに整理されたファイルから選び、リクエストできる
新刊やベストセラー、雑誌、寄港地のガイドブックなど豊富にそろえるライブラリー。ここで読んでも、借りて持ち出してもOKだ
メインエントランスのクリスマス飾り。見とれているとクルーが「よかったら撮りましょうか」と気さくに声かけてくれた

■いつもの景色にも感動や発見があふれる

 

初日の夜にひそかに楽しみにしていたことがある。それは、下関と北九州を結ぶ関門橋を真下から眺めることだ。関門海峡にかかるこの橋を通ったことはあるが、その下を通るのは今回が初めてだ。クルーに時間を尋ねると22時前後とのこと。それに合わせ、プロムナードデッキへ向かった。

 

船首に着くと、20名ほどの先客がいた。船内の窓からはスピードをあまり感じなかったが、遠くに見えていた関門橋がぐんぐん近づいてくる。橋の真下はほんの一瞬だった。真下にいる!と思った瞬間、デッキにいた方たちから小さな歓声が上がり、次の瞬間にはあっという間に通り過ぎていた。

 

遠く離れていく橋を眺めていると、「仕事で毎日渡っていた関門海峡でまさかこんなに感動すると思わなかったよ」とつぶやいた方がいた。よく見知った場所でも文字通り違う角度から眺めることで新たな発見や驚きに出会えることが、何度もクルーズに乗りたくなる理由なのかもしれない。

 

冷えてしまった体を温めるべく、グランドバスへと向かう。一度部屋に戻り、テレビで混雑具合を確認すると空いているようだ。洋上に居ながら、大浴場で手足を伸ばせるのは、日本船ならではの楽しみだろう。船体の動きに連動して湯船の中でお湯が傾いて見えるのを面白がりながら、のんびりと湯を楽しんだ。

下から見上げる関門橋は迫力満点! スピードが速く揺れもほとんどないため、橋の方が迫ってくるような錯覚になった
ほぼ真下から見た関門橋。帰路では深夜1時半ごろの通過予定とのこと。行きに見ておいて正解だった

■朝焼けをひとりじめ

 

小雨がちらついた昨夜は夕焼けは見られなかった。早朝、期待を込めて部屋のカーテンを開けると、朝焼けの空が飛び込んできた。晴れだ。それだけで旅は格段に楽しいものになる。

 

コートにマフラーを巻きデッキへ出ると、夜と朝の中間のような雰囲気だった。船の周囲に大小の島々がシルエットとなって浮かびあがる。目の前に遮るものがない船では、素晴らしい景色をひとりじめしている気分になる。刻々と変化していく空をゆったりと眺める。こういうぜいたくな時間を過ごすために、きっと人は旅に出るのだ。

 

島々の向こうからゆっくりと朝がやってくるドラマチックな景色をたっぷりと堪能した後、ドルフィンホールでおはよう体操に参加した。

デッキに出ると、マグリットの「光の帝国」のような光景が広がった。島の向こうには朝が来ているが、船のあたりはまだ夜のままだ
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デッキに出ると、マグリットの「光の帝国」のような光景が広がった。島の向こうには朝が来ているが、船のあたりはまだ夜のままだ
早朝のデッキには掃除するクルーをはじめ、日の出目当ての人、ウォーキングする人もちらほら。すれ違うときに互いにあいさつを交わす
軽いストレッチの後、ラジオ体操第一と第二が連続で流れ、体を動かす。体操が終わる頃には、お腹が「ぐぅ〜」
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