にっぽん丸で冬のしまなみ海道へ
海と陸から絶景をめぐる週末旅
寄港地の瀬戸田では、午前と午後にそれぞれ3つのツアーが用意された。徒歩・自転車・バスでめぐるツアーで、いずれもクルーズ代金に含まれる無料のもの。さまざまな楽しみ方を提案してくれる上、お得感もあるのが今クルーズの特徴だろう。もちろん船上での1日を楽しむもよし、参加せずに島を自由に散策するもよし。悩んだ結果、午前中は徒歩ツアーへ、午後はバスツアーに参加することにした。
瀬戸田には通船で上陸したが、それ自体が楽しい体験イベントだった。通船とは、大きな船の着岸が難しい港の場合などに、船を沖に留め、そこから小型のテンダーボートに乗り換えて港へ渡る方法だ。
今回はにっぽん丸に横付けされた台船に降り、そこからテンダーボートに渡った。港での乗り降りと変わらないくらい安定していたが、万が一に備えてクルーが次々と手を差し伸べてくれるので、王様のような気分を味わいつつテンダーボートへと乗り換えた。ボートといっても30名ほどが乗れるものなので不安はない。洋上に佇むにっぽん丸の凛々しい姿を同じ海上から見上げるのは初めてだったので、大いに興奮しながらその眺めを楽しんだ。




■見どころがいっぱい! 歩いて楽しい生口島
瀬戸田港のある生口島は広島県尾道市にあり、「レモンの島」とも呼ばれるレモンの名産地だ。また、瀬戸内しまなみ海道の道程にあることから、「サイクリストの聖地」としても世界的に名高く、近年は「アートの島」としても親しまれている。



15名ほどが参加した徒歩ガイドツアー。ガイドさんとともに「しおまち商店街」を練り歩き、耕三寺を目指した。未来心の丘で解散し、その後は各自で港へと帰るというツアーで、所要時間は約2時間。ゆったりとした行程ながらも、見どころにあふれたツアーだった。
江戸時代には北前船の航路として栄えた瀬戸田。瀬戸田港から耕三寺まで約600メートル続く「しおまち商店街」には、江戸時代から昭和初期にかけて建てられた古い町並みが残り、ノスタルジックな雰囲気を楽しんだ。




商店街を通り抜けたところにある耕三寺は、実業家の耕三寺耕三が母親の死後、母への感謝を込めて建立したことから「母の寺」とも呼ばれる。境内には、日光東照宮の陽明門を手本に作られた孝養門をはじめ、国登録有形文化財に登録される15の建物が並び、見応え満点だ。
ツアーの最後は、耕三寺内の高台にある生口島きっての「映え」スポット・未来心の丘へ。白い大理石で作られた広大な庭園の向こうに瀬戸田港が広がる景色はまるで地中海のよう。商店街で気になった店に立ち寄り、食べ歩きを楽しみながら港まで帰った。






■しまなみで一生モノの絶景に出会う
午後のバスツアーでは、しまなみ海道でもベストと太鼓判を押される絶景スポット、亀老山展望公園を一路目指した。
広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ、全長約60キロの「しまなみ海道」。瀬戸内海のめくるめく絶景が楽しめる世界的なサイクリングロードとして名高く、ドライブコースとしても秀逸だ。生口島、大三島、伯方島、大島の4つの島を駆け抜けた今回のツアーでは、その一端を体感することとなった。
瀬戸田から亀老山までは3つの橋を渡った。生口島と大三島を結ぶ多々羅大橋は、世界最長の斜張橋として誕生(現在は世界5位)。鳥が羽を広げたような美しい姿だけでなく、自然との調和を最優先したサステナブルな橋としても評価されているそうだ。「あ、にっぽん丸だ!」と誰かの声で橋の上から遠くににっぽん丸を認めると、皆一様に写真を撮り始めた。束の間のわが家ではあるが、その姿が見えると不思議とうれしくなるのは皆同じようだ。
大三島からは愛媛の旅となる。“伯方の塩”でおなじみの伯方島へ渡る大三島橋は、きれいな弧を描くしまなみ海道唯一のアーチ橋。最後に渡った伯方・大島大橋は桁橋と吊り橋という異なる構造の橋が連続する珍しいスポットだ。流れる美しい景色の中でバスガイドさんの楽しい話に耳を傾けていたら、片道約45分の道のりはあっという間だった。


亀老山は標高301メートル。最初にその数字を聞いたとき、そんなに高くないなと思ったが、そこまでの道のりが急カーブや急勾配の連続でとてもスリリングだった。狭くて対向車とすれ違えない場所も多く、崖道の際に停めてお互いに道を譲り合うシーンも何度かあった。そんな険しい道を自転車で登る人もいて、見かけるとバスの中ではどよめきやエールが起きていた。
そうして到着した亀老山展望公園から臨んだ景色は、息を呑む美しさ。紛れもなく一生モノと言える絶景だった。来島海峡大橋、瀬戸内海の多島美、360度の大パノラマが広がる。天気も季節もベストコンディションに近いのではないかとさえ感じる。にっぽん丸が連れてきてくれた喜びを噛み締めながら、また来る日までとしっかり目に焼き付けた。帰りは道の駅 多々羅しまなみ公園に立ち寄り、島内の特産品や土産などの買い物を楽しみ、にっぽん丸へと戻った。



