にっぽん丸で冬のしまなみ海道へ
海と陸から絶景をめぐる週末旅
船に戻ってからも、2日目の楽しみは尽きなかった。瀬戸内の夕日にうっとりした後、ドルフィンホールへ向かう。この旅の最後を飾る、カクテルパーティーとコンサートが開催されるのだ。
キャプテン主催のカクテルパーティーでは、ステージ横でハウスバンドが軽快なジャズを弾く中で、にっぽん丸オリジナルの3種のカクテルとソフトドリンクが無料で提供される。旅の思い出を語り合う楽しそうな話し声がホールを満たしたころ、にっぽん丸の福元剛ゼネラルマネージャーが舞台上に登壇し、操舵の難しい多島海を運航中の仲田敬一船長の代わりにあいさつした。
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この日のメインショーである古賀メロディーギターアンサンブルは、昭和歌謡を代表する福岡出身の作曲家・古賀政男の音楽を奏で続けるグループだ。美空ひばりや石原裕次郎、五木ひろしなど錚々たる昭和スターに楽曲を提供した古賀政男の名曲が、ギターやマンドリン、フルートの繊細な音色で奏でられると、舞台の灯りでシルエットになった観客の肩が揺れていた。ステージの背景には歌詞が大きく表示され、演奏に合わせて口ずさむ方々も。世代を越えて愛される、どこか懐かしさを覚えるメロディーが優しくホールに響き渡った。
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■旅のハイライトになるにっぽん丸グルメ
初日のことだが、ディナータイムにメインダイニング「瑞穂」の席へ案内されるほんの少しの間、すぐ後ろに並んだご婦人グループの一人がこう言った。「さあさあ、さっそくこの旅行のメインイベントよ!」 。それを口火に、それぞれがディナーへの期待を語り始めたのだ。その後もたびたび、船内のレストランやラウンジで先のご婦人方を見かけたが、その度にグルメを心ゆくままに楽しんでいる様子にこちらまで笑顔になった。
“洋上のオーベルジュ”という異名を持つにっぽん丸は、食事を目当てに乗船する方も多い。ショートクルーズのデメリットを挙げるとすれば、食事の回数が限られることかもしれない。もっと味わいたかった、あれもこれも食べたかったという思いを残すのは、食い意地の張った筆者だけではないはずだ。今回も“おいしかった記憶”が色濃く残った。
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寄港地や近隣の旬の食材や知られざる食材をとびきりの料理で味わえるのも、にっぽん丸の魅力だ。例えば、フレンチディナーの魚料理を鮮やかに彩った“甘長しし唐”。京野菜の一種だが、今治で盛んに栽培されているそうだ。名の通り、しし唐の風味はしっかりありながらも甘味だけが広がることに驚いた。
デザートでとろけたアールスメロンは高知の名産品で、メロン界の王様と呼ばれるのも納得の味わいだった。お正月におせちで食べる慈姑(くわい)は、広島県が生産量日本一を誇る。和食ディナーの最後に炊き込みご飯で堪能し、新たな魅力を知った。
土地を歩き、風土に触れ、その恵みを最もおいしい季節に味わい、土地への知識や愛着をさらに深める。それこそ旅の醍醐味ではないだろうか。今回のクルーズでも随所で冬の滋味を堪能でき、組み合わせの妙をじっくりと楽しんだ。やはり、にっぽん丸の食事は“メインイベント”に違いない。
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■ショートクルーズだからこその魅力
一口にクルーズ旅行と言っても、目的や楽しみ方は人それぞれだ。
徒歩ツアーで一緒に歩いたご夫妻は、コンサートを目的に何度も乗船されていると言っていた。「一般的なコンサートだと人も多くてただ疲れてしまうけれど、クルーズなら自分たちのペースで楽しめるでしょう?」。
バスツアーで隣になった男性は娘さんご家族と三世代で乗船し、おひとりでツアーに参加されていた。「まだ孫が小さいので移動がとにかく大変。クルーズならそれぞれが気兼ねなく好きなことをしてのんびり過ごせる」と、数年前からクルーズでの家族旅行が恒例となっているそうだ。
寄港地でのアクティビティはもちろん、クルーズ時間もしっかりと堪能したいという欲張りな筆者にとっても、正味2日間とは思えないほど楽しい体験で満たされたクルーズ旅行となった。週末旅では行き帰りだけでくたくたになることも多いが、移動時間そのものが楽しみとなるクルーズでは、旅先での時間と移動の時間の両方を満喫することができる。その良さはショートクルーズだからこそ、より実感できたことかもしれない。
博多港へ到着したのは、朝8時半。普段の日曜日ならまだ目を擦っている時間だが、早朝に朝日を見ながら大浴場で温まり、おいしい朝食もたらふく食べ、頭も体もすっきり快調! さて今日は何をしようか。新たな日々への活力をもらい、背中を押してもらった気持ちでにっぽん丸を後にした。
博多発着 にっぽん丸で航く しまなみ海道
日程:2023年12月1日(金)〜3日(月)
コース:博多〜瀬戸田(通船)〜博多
クルーズ代金:11万円(スタンダードステート)〜
50万2000円(グランドスイート)
船名:にっぽん丸(商船三井客船)
総トン数:2万2472トン
乗客定員:449人(最大)/乗組員数:230人
取材協力:商船三井クルーズ