音楽と春の美食を楽しむ
洋上のフィルハーモニークルーズ

音楽と春の美食を楽しむ 洋上のフィルハーモニークルーズ
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2024.04.16
こんなに美しい生演奏のクラシック音楽に包まれた船旅が今まであっただろうか。
この春、「飛鳥Ⅱ」が新日本フィルハーモニー交響楽団メンバーを招き、「春の調べ 新日本フィルハーモニークルーズ」を行った。
写真・文=石井真弓
パームコートでのラウンジコンサートに備えて、新日本フィルのメンバーが和やかにリハーサル中
船内に満ちる、春の花びらの重なりのような音楽

新日本フィルが「飛鳥Ⅱ」の船内で演奏を披露するのは、今回が初めてだ。これはきっと特別な旅になりそうだと予感したとおり、大変に思い出深いクルーズとなった。

 

横浜港から乗船するとき、週末を含む2泊3日の行程のためか、若い世代の乗客が心なしか多く目に入った。チェックインすると、5デッキメインデッキのピアノバーで、新日本フィルのメンバーがさっそく演奏をしていた。乗船時間に合わせて、ウェルカムミュージックを披露しているのだ。モーツァルトの室内楽曲などが、弦楽五重奏と木管五重奏で奏でられ、バイオリンやヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴット、ホルンの美しく優雅な音色が、高い吹き抜けの空間いっぱいに満ちていた。アコースティックが良いのか、包まれるような音の響きが大変に心地よい。出航する前から船内がクラシックの優雅な生演奏に包まれ、すでに、いつものクルーズとは違うことが感じられた。

 

新日本フィルは、2024年2月に亡くなった指揮者の小澤征爾氏が故山本直純氏とともに1972年に創立した、日本を代表するオーケストラの一つだ。東京墨田区のすみだトリフォニーホールを本拠地として、小澤氏をはじめ、久石譲氏や海外の著名な人々が歴代の指揮者を務め、日本およびヨーロッパ、中国など、数々の場所での名演奏で成功を収めてきた。2023年からは佐渡裕氏が音楽監督を務めている。

 

そんな新日本フィルの演奏を間近で聴けるのだから、ワクワクしないはずがない。今回のクルーズでは、弦楽奏者12名、管楽器奏者5名の計17名が乗船して演奏を披露するという。しかも、ギャラクシーラウンジでのメインコンサートのほか、11デッキパームコートでのラウンジコンサートが3回行われる。ウエルカム演奏を含め、2日間に5回も演奏を鑑賞できるのは、今回のクルーズならではだ。

 

船は定刻どおりに出航した。夕方、パームコートで夜のラウンジコンサートに備えた新日本フィルのリハーサル演奏が行われた。公開で行われたため、近くにいた乗客は、ソファ席でくつろぎながら、聞こえてくる音楽を楽しむことができた。なんとすてきな光景だろうか。

 

そして夜、1度目のラウンジコンサートが行われた。演目はモーツァルトの軽快な「ディヴェルティメントKV.136」から始まった。祝賀や社交の場などに演奏されることが多く「嬉遊曲」とも呼ばれるそう。バイオリン、ヴィオラ、チェロが華やかに奏でる音色は、春の花びらの重なりのようにも感じられ、大変に優雅で美しい。

 

次は「弦楽四重奏第17番KV.458『狩』」の第一楽章弦楽四重奏。「狩」というタイトルは後年ついたものであるなど、モーツァルトに関する逸話のお話なども挟んだ後、クラリネット奏者が加わり、「五重奏曲KV.581」の第一楽章が演奏された。すぐ間近で聞く楽器の音色は本当に美しく、心身の細胞に染みわたっていくような感覚さえ覚えた。フロアに用意された椅子は全て満席になり、立ち見の方がいたほどだ。熱い拍手とともに約30分間のラウンジコンサートが終了し、初日から美しい音楽に包まれた幸せな余韻に浸りながら、客室に戻って眠りについた。

巨匠が指揮した「俺のオケ」

翌日、朝食の後に、新日本フィルのコントラバス奏者、城満太郎さんにお話を聞いた。城さんは前日、メインデッキでウェルカムミュージックを演奏した。演奏者同士の距離感が近くてお互いの音がよく聞こえ、音でのコミュニケーションをとりやすく、演奏しやすかったとのことだ。演奏者からすると、そんな時が小編成の演奏会の楽しさであり、醍醐味とのこと。

 

新日本フィルが今回演奏する曲については、「どれもメロディーがキャッチーで、どこかで聴いたことあると、皆さんが思う曲だと思います」と城さん。聴きどころをたずねると、ビゼーの「カルメン組曲」と「アルルの女組曲」とのこと。もともとオーケストラ70人で演奏する曲だが、今回用に新日本フィルのメンバーがアレンジしたバージョンを演奏するという。「このクルーズのためだけの演奏なので、まさに一期一会です。お客さまが聴いて、あれ?と思ってくれたらうれしいですね」とのことで、楽しみが高まった。

 

今回、初めて飛鳥Ⅱに乗船した城さんは、「クルーズ船は乗った瞬間から余暇を楽しむことができるからいいですね」と語る。都心からも近い横浜港で乗船した後は自分で移動する必要がなく、すぐに余暇が始まるからだそう。確かに、それはクルーズ旅の大きな魅力の一つだろう。また、飛鳥Ⅱの船内に、音楽にちなむアートオブジェが多いことが目についたそう。パームコートに置かれた、ハープを奏でる女性の像について、「あのハープには足元にペダルがついているので、比較的年代が新しいものですね」と城さん。さすが音楽のプロフェッショナル!と感心した。

 

城さんは2014年に、病から復帰した当時の小澤征爾氏の指揮の下で、バルトークの楽曲を演奏した経験があるそうだ。「小澤さんは『新日本フィルは俺のオケ』という感じで、新日本フィルのほうも『うちの小澤征爾』という意識があり、お互い心理的な距離が近い気がしました。みんなが彼を信頼していて、小澤さんの音楽のスタイルが浸透していましたね」と思い出を語ってくれた。

ウェルカムミュージックが演奏されたピアノバーのエリアはアコースティックが良いのか弦楽奏の音色がとてもよく聞こえた
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ウェルカムミュージックが演奏されたピアノバーのエリアはアコースティックが良いのか弦楽奏の音色がとてもよく聞こえた
ウェルカムミュージックでは弦楽五重奏と木管五重奏が交互に行われた
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ウェルカムミュージックでは弦楽五重奏と木管五重奏が交互に行われた
船内のコンサートでは毎回違う曲が演奏され、多くの美しい管弦楽奏を聴くことができた
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船内のコンサートでは毎回違う曲が演奏され、多くの美しい管弦楽奏を聴くことができた
早起きして、日の出前にプールサイドの上のデッキから見えた伊豆半島の山々
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早起きして、日の出前にプールサイドの上のデッキから見えた伊豆半島の山々
夕刻に横浜港を出港してしばらくすると、キャビンから富士山のシルエットを眺めることができた
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夕刻に横浜港を出港してしばらくすると、キャビンから富士山のシルエットを眺めることができた
春のクルーズならではの桜の大きな生け花が、5デッキメインデッキのアスカプラザに華やかさを添えていた
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春のクルーズならではの桜の大きな生け花が、5デッキメインデッキのアスカプラザに華やかさを添えていた
ラウンジコンサートの合間に、モーツァルトの幼い頃の逸話や、楽曲にまつわるお話も入り、クラシック音楽の知識が深まった
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ラウンジコンサートの合間に、モーツァルトの幼い頃の逸話や、楽曲にまつわるお話も入り、クラシック音楽の知識が深まった
新日本フィルハーモニー交響楽団員として今年で14年目になるコントラバス奏者の城満太郎さん。船内には音楽をモチーフにしたアートオブジェが多いことに気づいたそう
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新日本フィルハーモニー交響楽団員として今年で14年目になるコントラバス奏者の城満太郎さん。船内には音楽をモチーフにしたアートオブジェが多いことに気づいたそう
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