飛鳥Ⅲへの道【シリーズ第3弾】Report
ダグラス・ワード氏が視察、建造がすすむ「飛鳥Ⅲ」のいま
ダグラス氏は1980年代後半から10回以上、マイヤー造船所を訪問したという。コロナ禍後、今回が初の訪問となった。
「80年代後半、一番最初に訪れた時は、飛鳥Ⅲ(5万2000トン)よりも小さい4万4000トンの客船を見学しました。それが2 024年1月には史上最大となる約25万トンのメガシップが同社のトゥルク造船所から就航しています。さらにコロナ禍以降も事業は拡張しているのです。
そんな中、飛鳥Ⅲは同造船所にとって初の日本船籍船になりますので、注目に値するでしょう」。
■造船所内の高度なセキュリティ
造船所内の視察はまず、安全規則に従ってヘルメット、オレンジ色の胴衣、安全靴を着用して行われた。
最初は会議室にて、このプロジェクトのマネージャーであり案内係であるアルト・コルペラ氏のプレゼンテーションを聞いた。創業1795年というマイヤー造船所の歴史や、かつて建造した客船やリバー客船などが紹介された。さらに飛鳥Ⅲの完成イメージ画像などがカラフルな映像で流れた。
その後いよいよ、建造中の飛鳥Ⅲへ向かう。造船所内は徹底したセキュリティで、タクシーで敷地内に入る時はパスポートなどの写真付IDが必要であり、検問にてバーコード付きIDを受け取る。
いざ飛鳥Ⅲの建造エリアに足を踏み入れる時、このIDのバーコードを読み取らなければならなかった。造船所の工員だからといって、誰でもエリア内を自由に行き来できるわけではないのだ。安全を徹底し、さらに情報を守秘しているのがわかる。そして巨大なヤード内に鉄色の船体が見え、付近は機材を運ぶトレーラーなどが稼働していた。
電気配線やパイプ類がむき出しになった船内に入り、ダグラス氏はどう感じただろうか。
「とてもよく整備されていると感じます。仕上がりが楽しみですね。この造船所だけで3300人もが雇用されているとか。造船所の中には立派な託児所も完備されているそうですね。労働環境を整えることは納期を守るためにも重要なことなのです」。
■客室は造船所外で造り
それから積み込まれる
天井からコード類が多数ぶらさがっている廊下を歩き、階段を数デッキ分のぼり客室区域へ向かう。ただしまだ空っぽで何もない。現在、造船所の外で客室ひとつずつのコンパートメントになる箱が造られており、間もなくそれを積み込む作業が始まるのだという。
ダグラス氏が客船建造の工程をわかりやすく説明してくれた。
「造船所がクルーズ船のすべてを建造するわけではありません。パーツやモジュールなどと呼ばれる部分を外部に発注し、届いたら次々と本船に組み込んでいって建造していくのです」。
最後に船首部分に移動し船の造波抵抗を打ち消す赤いバルバスバウを見下ろす場所に立った。キール・レイイング・セレモニーから、だいぶ工程が進んでいる。すでに突き出したバルバスバウの姿がよくわかり、さらにその奥には複数階のデッキが見てとれる。
ダグラス氏はニッコリと微笑んだ。「とても順調に進んでいると感じます。皆さんと同じで、私も飛鳥Ⅲの就航が楽しみです」。
取材協力=郵船クルーズ
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