祈りの聖地、天草をゆく

祈りの聖地、天草をゆく
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2025.06.27
熊本県南西部に位置し、約120の島々からなる天草。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として、世界文化遺産に登録されている。歴史と信仰、そして豊かな自然が息づくこの地を、フランス船社ポナンがたびたび訪れている。今年4月の寄港の様子を紹介するとともに、﨑津漁港から始まる熊本の旅を案内しよう。
写真・文=君島有紀
のんびりと釣りを楽しむ人も多い﨑津漁港。信徒の漁師たちが航海の安全を願って崖上に建てられたマリア像は、冬には夕日と重なる絶景スポットとしても知られる

南極や北極など、極地での探検クルーズを数多く手がけるポナン。コンパクトな船体だからこそ可能となる、一般的な航路とは異なるユニークなコース設定も同社クルーズの大きな魅力だ。乗客184人、約1万トンの「ル・ジャック・カルティエ」は、昨年に続き今年も来航。独自の視点で日本各地をめぐり、日本人でさえ足を運ぶ機会の少ない、知られざる絶景や文化を紹介した。今回の﨑津寄港は、昨年の反響を受けてのものだ。

 

熊本県のクルーズ拠点といえば、2020年10月に開業した「くまモンポート八代」がよく知られている。最大22万トン級の客船が入港可能な、九州中央の大型クルーズ船専用港である。一方、﨑津漁港と聞いて、その場所を即座に思い浮かべられる人は少ないだろう。無理もない。羊角湾に深く入り込んだ天然の港である﨑津漁港は、もともと小さな漁港にすぎない。天草下島の南西部にあり、クルーズ船の寄港はポナンが初めてで、現時点で唯一でもある。

 

昨年は半日のみの短い寄港だったが、乗客からの好評を受け、今年は終日滞在に。地元観光協会や地域の協力のもと、地元の歴史に詳しいガイドによるウォークツアーも催行された。沖に停泊していた船から、小雨のなか、乗客たちはボートに乗り変え港に上陸した。

海面近くを疾走するゾディアックボートによる上陸は、冒険気分を味わえる
CRUISE GALLERY
海面近くを疾走するゾディアックボートによる上陸は、冒険気分を味わえる
祈りが息づく町・﨑津

海辺にひっそりと佇む小さな集落、﨑津。ここは厳しい弾圧を受けながらもキリスト教への信仰を静かに守り続けてきた、いわゆる「潜伏キリシタン」の集落だ。集落全体が、世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産に登録されている。一見すると、昔ながらの素朴な漁村の風景が広がるが、集落のあちこちに祈りの歴史を静かに伝える場所が点在している。

 

上陸に先立ち、乗客たちは海上から象徴的な風景を目にする。漁師たちを見守るように岬の突端から海を見つめる純白のマリア像、そして、集落の屋根の合間から尖塔がそっと顔をのぞかせる﨑津教会だ。その佇まいに、信仰と暮らしが密やかに息づいてきた歴史を垣間見た乗客たちは期待に胸を膨らませ、港へと足を踏み入れた。

 

大漁旗が色鮮やかに旗めく岸壁では、住民たちが笑顔で乗客を出迎えた。港には熊本県のPRキャラクターであるくまモンも登場し、記念撮影の列ができる人気ぶりを見せた。地元の高校生が郷土芸能・ハイヤ踊りを披露すると、乗客たちも法被をまとい一緒に踊るひと幕も。なかでも大きな歓声を集めたのが、天草産本マグロの解体ショーだ。職人が見事な手さばきで巨大なマグロをさばくと、漁港内に大きなどよめきが広がった。マグロは﨑津の寿司店「海月(くらげ)」の職人たちによって、船内で昼食として振る舞われた。口の中でとろけるような握りに乗客たちは感嘆の声を漏らし、用意された大量のマグロ寿司は、瞬く間に乗客の胃袋へと収まっていった。

﨑津諏訪神社から続く505段の石段を登った展望公園から眺める羊角湾
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﨑津諏訪神社から続く505段の石段を登った展望公園から眺める羊角湾
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漁港では特産品の試食や販売も行われた
天草マグロは、天草の海で育てたクロマグロ(本マグロ)。天草はマグロ養殖を行う国内でも数少ない地だ
天草マグロは、天草の海で育てたクロマグロ(本マグロ)。天草はマグロ養殖を行う国内でも数少ない地だ
ポナンのスタッフ会議に参加するくまモン (C)2010熊本県くまモン
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ポナンのスタッフ会議に参加するくまモン (C)2010熊本県くまモン
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