美食のフランス船社ポナンで探検する
日本の深部、知られざる瀬戸内へ
■地域とつながる美食
こうした特別感のある寄港地体験もさることながら、一方の船内生活も唯一無二のものだ。フランス船らしく、すべてにフランスのエスプリがきいている。
毎夜提供されるフランス料理のおいしさは言わずもがな。提供されるフルコースは、まるで毎晩予約なしにミシュランの星付きのレストランを訪れているようだ。
しかも料理の中には、今回の寄港地で仕入れた食材も使われていた。呉市では鯛を仕入れたといい、それが料理長によって地中海風にアレンジされた一皿として出てきた。こうしてポナンと寄港地の良き関係が紡がれていく。
地中海風に仕上げた一皿は、「この地に地中海のエッセンスを感じたから」と料理長。確かにポナンで行く瀬戸内海は、どこか地中海を旅しているような気配がある。
ワインもクルーズ代金に含まれていて、ドリンクに頭を悩ますこともなければ、いちいちサインする必要もない。もちろん特別な夜にはソムリエと相談して特別なワインを選ぶこともできる。
料理はメインディッシュのみならず、脇役までしっかりおいしい。パンは船内に職人がいて、パリッとした本場のフランスパンが味わえるし、バターは名門ボルディエのもの。ポナンの船では「バターがおいしくてついパンが進む」という体験が待っている。
さらにデザートのレベルの高さにも恐れ入った。「今日は控えめに……」と思いつつ、オーダーしたが最後、気づけば夢中でスプーンを口に運んで平らげてしまう。 また寄港地から帰ってくる頃にラウンジで用意されるマカロンやクレープなど「フランス式3時のおやつ」も日々の楽しみだった。
日々の楽しみといえば、この瀬戸内海クルーズでは毎日ラウンジで「日本酒のリレー」が行われていた。次の寄港地のお酒が乗客に振るまわれるもので、楽しみにしていた乗客も多かった。こうしたアイデアにも、ポナンの「寄港地を深く知る」精神が宿っている。そして皆が日本酒を口にして「おいしい」と日本人の私に伝えてくれるのは、勝手に日本代表になった気がして、誇らしくもあった。
■本来の船旅の面白さ
実際、このクルーズでは多くの人が話しかけてくれた。時には隣り合わせたフランス人のマダムに「日本人はなぜ机とイスではなく、床に座って生活しているの?」と問われ、ドギマギすることもあったが……。船のクルーやナチュラリストはもちろん、そこには隣り合わせた乗客同士、気軽に声をかけられる雰囲気があった。
その濃密な空気は、約1万トン、264人乗りというサイズ感だからこそだろう。そして乗り合わせた乗客は皆好奇心が強く、話題豊富。社交こそ船旅の楽しみのひとつだということを改めて思い出した。
7泊はあっという間に過ぎた。船でしか行けない地をめぐり、その地を深く知り、そして美食と社交を楽しむ──。ポナンのル ソレアルで旅した日々には、船旅本来の楽しみが凝縮されていた。
クルーズの最後の夜、プールデッキではガラパーティーが行われた。おしゃれな装いの乗客を前に、クルーの一人ひとり名前が呼ばれ、フランス国旗の前に勢ぞろいする。茜色に染まる夕日をバックにしたその光景はまるで映画のワンシーンのようで、このまま時間が止まればいいのに、と思った。
●取材メモ
穏やかなる瀬戸内海
日程:2023年5月15日(月)~5月22日(月)
船名:ル ソレアル(ポナン)
総トン数:1万992トン
乗客定員:264人/乗組員数:140人
全長:142.10メートル/全幅:18メートル
協力:ポナン www.ponant.jp