行きたかった九州のあの地へ楽々と
飛鳥Ⅱでつくる夏の思い出
神戸港に停泊中の飛鳥Ⅱは、いつもよりちょっぴりおめかししていた。新たなクルーズの出航を祝して、船体に満船飾を掲げていたのだ。
さらにその航海は”久々の”飛鳥Ⅱを待ちわびていた乗客で満船だった。今回のクルーズは、飛鳥Ⅱが100日間におよぶ2024年の世界一周クルーズを安全に終え、無事に日本に帰国した直後だったからだ。加えて久々の神戸発着クルーズとあって、同船は関西からの乗客を中心ににぎわいを見せていた。「やっぱり関西から飛鳥Ⅱに乗れるのはありがたいわよね」。大阪から来たという乗客はそういって笑顔を浮かべた。
出航の時が近づき、飛鳥Ⅱはゆっくりと神戸ポートターミナルを離れていった。軽快なバンドのリズムに合わせ、踊る乗客の姿も。予想以上に多い見送り客に手を振りながら、飛鳥Ⅱはゆっくりと出航した。
今回のクルーズは「神戸発着 夏の別府・日向クルーズ」。久々の神戸発着に加えて、由緒正しき温泉街である別府と、宮崎県の神話の舞台のひとつである日向を効率よくめぐれる……というのが、多くの乗客がこのクルーズに参加した理由のようだ。実際、同様の行程を陸上のツアーで見つけるのは難しいだろう。さらに飛鳥Ⅱほど移動時間を楽しみながらできる旅行も見当たらない。船旅だからこそのユニークな4日間が、いよいよ幕を開けた。
■ドレスコードの不安を払拭する新たなサービス
出航パーティーを終えてひと息ついたところで、船内で新たなサービスと出会った。「Another ADdress」のネオンサインとともに、クラブ・スターズには洋上ブティックの様相で、ズラリと華やかなドレスやスーツが並んでいるのだ!
これは飛鳥Ⅱと「Another ADdress」という洋服レンタルサービスがコラボレーションし、今回のクルーズで試験的に実施しているもの。クルーズ前にドレスやスーツを予約しておけば、船上でレンタルできるというサービスだ。さらに今回のクルーズでは予約なしでも船上で直接レンタルできるということで、なんと300着ものワンピースやジャケットが用意されていた。
試験的とはいえ、これはすばらしいサービスだと感じた。4,400円という手ごろなサービスで、ハイブランドの洋服がクルーズ中にずっとレンタルできる。クルーズに参加するに当たってドレスコードを不安に思う人もいるだろう。けれどこのサービスがあれば気楽にレンタルできるから、その不安とは無縁だ。さらに荷物も少なくなるうえ、レンタル代にはクリーニング代も含まれているから、帰宅後のドレスのケアも省ける。
何より、自分で買おうと思うとなかなか手が出ない大胆な色やデザインのドレスも、華やかな飛鳥Ⅱの船内、しかもレンタルであれば思い切って挑戦できる。「これはどう?」「こっちも良さそう!」。乗船早々、同行のカメラマンとまるでショッピングを楽しむような気分でドレス選びを楽しんだ。今回は試験的に始まったサービスというが、今後導入される際にはぜひ再度利用しようと心に誓いながら。
■船旅はコミュニケーションの旅
出航翌日はゆったりと終日航海日。船内は久々の飛鳥Ⅱ乗船を積極的に楽しもうと、各施設や船内イベントをめぐる乗客の姿が見られた。
バルーンアート教室では、風船でウサギやオウムの作品作りに挑戦。途中、「パン!」という破裂音とともに参加者の一人の風船が割れ、教室に軽い悲鳴が響いた。その瞬間、「あービックリした!」と他の参加者も口々に語りだし、場が一気になごむ。
船内イベント、特に手を動かして作品を作る講座は、何かを作りあげる面白さはもちろん、乗客同士が話すきっかけにもなる。風船は割れたけれど、それを機に船上での新たなおしゃべりが生まれる……。船旅はやはりコミュニケーションの旅だと感じる。
■船内のおいしいものめぐりに伝統工芸品めぐり
ゆったりした終日航海日をどう過ごすか。中には「船内おいしいものめぐり」に繰り出す人も。リドカフェでは、おなじみのジェラートをオーダーする人が続々。フルーツなど素材の味がしっかりと感じられるジェラートは、飛鳥Ⅱの夏には欠かせないものだ。
軽食では初めてフィッシュバーガーにトライしてみた。かぶりついてみると、弾力あるフィッシュパテから、じわりとシーフードの滋味があふれ出してくる。ほかにもマルゲリータピザに舌鼓を打ったり、季節限定のサマーフルーツティーを味わったり。3食の食事以外にも飛鳥Ⅱには美味が多い。「胃袋がもうひとつあったら!」。きっと多くの乗客がそんなことを思ったはずだ。
船内の伝統工芸品めぐりも、飛鳥Ⅱの楽しみのひとつ。伝統工芸品には手の平サイズの繊細な作品も多く、それが間近でじっくり見られるのがうれしい。蒔絵の緻密な模様のひとつひとつにため息をつき、器を彩る彩色に見入り……実は日常ではなかなか味わえない時間だ。