クルーズのあり方を変える!?
衛星利用のインターネットサービス「スターリンク」とは
中でも続々とクルーズ船に導入されている「スターリンク」に注目したい。
コロナ禍は世界にさまざまな衝撃を与えたが、一方でコロナ禍があったからこそ加速度的に進歩した面もある。クルーズ業界でいえば船内のDX(デジタルトランスフォーメーション)は劇的に進んだ。
中でもクルーズ船内におけるインターネット回線の高速化は、最もわかりやすい変化のひとつではないではないだろうか。
これまで洋上では「デジタルデトックス」と言われ、インターネットが遅かったり繋がらないのは当たり前、むしろそれを楽しもうという傾向があった。それがコロナ禍を経て一転、陸上に近いスピード感でインターネット接続ができるクルーズ船が増えている。
その背景にあるのがスペースX社のインターネットサービス「スターリンク」だ。2022年7月に海洋版スターリンクが登場してから、ロイヤル・カリビアン・インターナショナルを筆頭に、フッティルーテン、シードリーム・ヨットクラブ、カーニバル・コーポレーション、ホーランド・アメリカ・ラインなどが続々と導入を表明。すでにかなりの数のクルーズ船がスターリンクを導入していて、多くの乗客がクルーズ中にインターネットに常時接続している。WEB CRUISEのニュースで「スターリンク」と検索すれば、複数のニュースが出てくる。
●その特徴と日本船の動向
そもそもスターリンクとは、かのイーロマン・マスク氏が経営するスペースX社が提供するサービスで、衛星を使ってインターネットにアクセスできる。地球のほぼ全域からアクセスでき、航海中でも低遅延、最大ダウンロード速度350Mbpsの高速インターネットが利用可能としている。設備の設置費用や通信費が従来に比べ大幅に低減できるのも特徴だ。
実際にスターリンクを利用して洋上でインターネットに接続すると、まったくストレスがなくて驚く。船会社によってはSNSやWEB閲覧用と動画閲覧用など二段階で料金設定をしているが、特に動画閲覧用は陸上にいるのとなんら変わりないスピード感でインターネットに接続できる。動画閲覧はもちろん、洋上からWEB会議にも参加できるほどだ。
スターリンク導入の動きは日本船にも波及しており、商船三井とKDDIは、「にっぽん丸」やフェリー「さんふらわあ さっぽろ」などでスターリンクのトライアル利用を順次実施すると発表している。
ただし日本国内の電波関連法令では現在、公海上でのスターリンクの使用が禁じられており、領海内に制限される。ゆえに日本籍船では本格導入に至っていない。今年9月末には日本外航客船協会(JOPA)が日本籍船におけるスターリンクの全世界での利用に関する要望書を国土交通省海事局に提出、規制緩和を求めた。
●「洋上オフィス」も夢ではない
テクノロジーの進歩は日進月歩だ。船上のインターネット接続環境に関しては、これまで陸上よりは遅れをとっていたが、その差異はスターリンクの登場により確実に減っている。次なるステップとしては、インターネット接続料金の低減か。ただしすでにスターリンクのインターネット接続料をクルーズ代金に含む船会社も増えてきている。
これまでクルーズ船は「デジタルデトックス」をうたっていたが、むしろ昨今は「洋上ワーケーション」が可能になりつつある。コロナ禍によって働き方の多様化が進んだこともあり、「洋上オフィス」を構える乗客も出てくるのではないだろうか。「昔は船の上ではインターネットに接続できなかったんだ、懐かしいねえ」と語らう日も、決して遠くはなさそうだ。